Research Details of Selected Papers

液状化可能な金(I)錯体塩を用いた瞬間刺激応答発光

論文タイトル:Rapid Luminescent Enhancement Triggered by One-shot Needlestick-stimulus Using a Liquescent Gold(I) Salt
掲載雑誌情報:Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 19701-19704. (DOI: 10.1002/anie.202107097)

本論文では液状化可能なN-ヘテロサイクリックカルベンを配位子とする金(I)錯体を利用した刺激応答発光特性に関して述べています。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを対イオンとする金(I)錯体塩をおよそ 130 ℃に加熱することで融解します。それを約 90 ℃ に冷却することで得られる固体は UV 光下でほとんど発光性(弱いオレンジ色発光)を示しませんが、弱く針で刺激を与えることで  UV 光下で非常に強く青紫色発光を示す状態に変化することがわかりました。針刺しによる発光増強現象は非常に速く固体全体にかつ広範囲に広がることもわかりました。液状化現象をもちいることで様々な形状に加工可能であることから広い領域に応用可能な技術と考えています。

動画1:液滴状態から調製した固体の刺激応答発光特性の様子
動画2:ガラスに挟んで薄膜状態に調製した固体の刺激発光特性の様子
動画3:渦巻き状の薄膜状態に調製した固体の刺激発光特性の様子
動画4:なんども繰り返して行った刺激発光特性の様子

液状化可能なラジカルカチオン種を利用した近赤外吸収特性変化の熱履歴現象

論文タイトル:Hysteretic Control of Near-infrared Transparency Using a Liquescent Radical Cation
掲載雑誌情報:Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 8284-8288. (DOI: 10.1002/anie.202016930)

本論文では N-ブチル-N’-メチルジヒドロフェナジンラジカルカチオンの固液相転移を利用した近赤外吸収特性と諸物性の熱履歴現象に関して述べています。N-ブチル-N’-メチルジヒドロフェナジンラジカルカチオンのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩は約 100 度で分解せずに緑色固体から緑色液体に変化します。融解後温度を下げても比較的低温まで凝固せず、30 度でも長時間液体状態を保つことがわかりました。そこから少しだけ温度を下げた 25 度付近で元の緑色固体へと戻りました。一見すると状態以外変化がないように見えますが、固体状態と液体状態で近赤外吸収特性が大きく変化することがわかりました。これらの特性により光透過性を利用する興味深い現象が見られます。固体状態では可視光では濃い緑色のため、また 940 nm の近赤外光ではその光は透過せずに下側に置いた文字は読めません。液体状態では可視光では濃い緑色のために文字が読めませんが、940 nm の近赤外光では文字が読めるようになります。各種測定から、固体状態では多中心結合性のπダイマー (二分子間の多中心結合によりスピンを打ち消し合う状態) として存在していますが、液体状態では単量体 (モノマー) として存在していることが分かりました。本研究は、凝集状態における多中心結合の履歴状態制御という観点から極めて重要な基礎化学的知見と考えています。

動画1:ジヒドロフェナジンラジカルカチオン誘導体の固液相転移の様子
動画2:ジヒドロフェナジンラジカルカチオンを用いた近赤外光透過性制御

14DHP

液状化可能なラジカルカチオン種を利用した刺激によるスピン情報変換戦略

論文タイトル:Strategy for Stimuli-Induced Spin Control Using a Liquescent Radical Cation
掲載雑誌情報:ACS Omega 2019, 4, 10031-10035.

本論文では N-ペンチルフェノチアジンラジカルカチオンの固液および液固相転移の際に示す前例のない特異なスピン情報変換に関して述べています。N-ペンチルラジカルイオンのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩は約 100 度で分解せずに非磁性緑色固体から常磁性オレンジ色液体に変化します。興味深いことに、融解後に温度を下げると、50 度付近で常磁性液体から常磁性オレンジ固体へ、さらに、30 度付近で常磁性固体から非磁性緑色固体にゆっくり変化することが分かりました。常磁性オレンジ色固体状態が 50 度では長時間変化しませんが、弱いピンポイント刺激を与えることで、刺激を与えたところから非磁性緑色固体への変化が観測されます。各種測定より、非磁性状態ではフェノチアジンラジカルイオンの多中心結合性のπダイマー (二分子間の多中心結合によりスピンを打ち消し合う状態) として存在していますが、常磁性液体状態では単量体 (モノマー)、常磁性オレンジ色固体状態ではラジカルカチオンのπ電子系平面がずれて重なったダイマーとして存在していることが分かりました。本研究は、凝集状態における多中心結合の力学刺激によるコントロールという観点から基礎科学的に極めて重要な知見と考えています。

動画1:ラジカルカチオン種の結晶の融解、その後の凝固の様子
動画2:融解後の常磁性オレンジ固体に対して刺激を与えたときの様子
動画3:常磁性オレンジ固体に対して、刺激の有無による変化の違い

radicalcation